刑法では、傷害罪(204条)と暴行罪(208条)はともに第27章の傷害の罪という章の中で規定されています。
一般的にこれらは混同されがちですが、それぞれの違いはなんでしょうか。
本稿では、傷害罪と暴行罪の構成要件(犯罪が成立するための原則的な要件)の違い、傷害罪と暴行罪の法定刑の違いについて解説していきます。
傷害罪と暴行罪の構成要件の違い
傷害罪と暴行罪は、構成要件において以下のような違いがあります。
形法204条によれば、傷害罪について「人の身体を傷害したもの」について成立します。
判例は、傷害とは人の生理的機能に障害を加えることをいうとしています。
暴行により引き起こされる典型的な怪我のほかにも、傷害罪の傷害にあたると認められた例としては、病毒の感染、失神状態、キスマークなどがあります。
傷害の方法については、通常は暴行行為によってなされますが、条文が傷害の方法に限定を加えていないことから、傷害の結果を生じさせることができる方法であれば有形的方法によるか無形的方法によるかを問いません。
そのため、例えば嫌がらせ電話により、被害者をノイローゼにしたような場合でも傷害罪が成立するとした判例があります。
また、故意については、有形的方法による傷害の場合は暴行の故意で足りますが、無形的方法による場合には傷害の故意が必要であると理解されています。
つまり、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯(意図していた犯罪の結果以上に重い結果が発生した場合に、その重い結果に相当する犯罪の成立を認めること)であり、怪我させるつもりがなく暴行した場合でも、相手が怪我をしたときには、傷害罪が成立することになります。
形法208条によれば、暴行罪について「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立します。
暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
すなわち、他人を殴る蹴る行為はもちろん、他人の被服を引っ張り電車に乗るのを妨げる行為や、頭髪の切断なども暴行にあたります。
有形力の行使は、広義の物理力の行使であり、力学的作用のほか化学的生理的作用、エネルギー作用も含まれます。
そのため、不法に強烈な音波を用いることなども暴行にあたります。
暴行と言えるためには、被害者への接触は不要であり、刀を振り回したり投石したりして被害者に接触しなかった場合も暴行にあたります。
さらに、暴行については傷害の結果を発生させる危険は不要であり、食塩をふりかける行為や唾を吐きかける行為についても暴行にあたることとなります。
傷害罪と暴行罪の法定刑
傷害罪の法定刑について、204条は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金と定めています。
これに対して、暴行罪の法定刑については、208条が2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は勾留若しくは科料と定めています。
懲役刑についてみても、傷害罪は15年以下、暴行罪が2年以下と大きく差があり、傷害罪が暴行罪に比べて重罪であることがわかります。
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